左右若老場

政治・思想・経済等への雑感を吐いていくこの上なく面倒で不要な場とその主

利用する政治

世の中、会社の会議一つ取っても様々な事情を利用して思いのままに事を進めようとするのはよくある話だ。特に大企業の会議ともなればドラマのネタによくあるような派閥争いが日常茶飯事だろう。総じて利権争いと言い、政治と言う。

日本国という大企業も当然、この利権争いが日々行われている。国会でのくだらない与野党の言い争いも、失言一つをおおげさに追求してマイナス点を作ろうとする動きに過ぎない。なにも日本の国会だけがこうも稚拙なのではない。世界の国々も、社会全般がそうだと言える。大人の社会は表向きだけの清廉さを尊ぶという意味で、子供の学級会よりも質が悪い。

この1月に発生したイスラム国日本人拘束事件の犯人グループ。

ISIL・・・ISISの方がよく知られているテロリスト集団がその政治に利用されている。今回、残念ながら殺害された二人の命も政治に利用されている。

今回の誘拐事件を大局的に見れば、ISILが得たものはまた新たに周辺諸国に攻撃の大義名分を作っただけで、得られたものはなにもない。むしろ日本と繋がりの深い中東諸国にはISILに対し将来的に何かしらの融和策を見出そうとした時に、そのハードルを上げただけで、国家として承認される可能性をより低くしたといえる。これまで2014年8月に発生した日本人誘拐事件ぐらいしか接点の無かった日本にとって、今回の殺害は明確な形で日本に敵対するものであり、ISILと戦う各国に対する支援に大義名分を与える形となった。特に今回は2億ドルの人道的支援をISIL側は理由の一つとしていることもあり、つまりは現地の人々に医療行為や食糧支援などをするなと言われたと、そう考えることもできる。あとは難民の映像を背景に「彼らを救え!」とでも謳えば、日頃から人道を口にする連中には否定しにくくなるだろう。

というのは話の通じる相手だった時の話だ。殺害した犯人よりも自国の首相を非難する連中には真っ当な政治は通用しない。

政治利用しているという意味では日本政府も反安倍も同じである。だがその本質はかなり異なるだろう。

日本政府、安倍首相は今回の事件を機会に憲法9条改正による自衛隊の邦人救出を容易にする方針を2月3日に表明している。他にもさらなる中東諸国への人道支援も先に表明している。中東は原発停止以降、石油需要がさらに高まった日本にとって最も重要な地域だ。そこの人々が安定した生活を営み、教育を受けやすくなるようになることは将来の中東の安定化、つまり原油輸入の安定化に繋がる。そして憲法9条改正もまた、現行の有事法では法解釈にも限度があるということだ。実際問題、今過半数を占める与党が本気を出せば憲法改正をしなくとも自衛隊を他国の了承を得ずに人道的な目的で派兵することは可能だろう。私自身、そのような救出作戦が今の自衛隊に可能かという不安があるので望ましいとは言い難いが、米国の特殊部隊に必ず頼れるわけでもなく、また警察力でどうにかしようにも相手は軍隊の装備である。そんな敵を相手にするのは軍隊の仕事であるからして、自衛隊が万が一の時にできる活動の幅が広がることそのものは望ましい。後はそこに予算と装備がついてくれば文句なしだ。

一方、この事件を日本政府批判、安倍批判に持ってくる連中はどこに政治的目的があるのだろうか?

言うまでもなく安倍首相の辞任である。テロリストに人質が殺害された、それは政府対応がまずかったからであって、責任者たる首相は辞任するべきだ、と。

だがしかし現在、政府対応に問題がなかったことはほぼ明らかとなっている。より良かった対応策は色々論じられているが、周辺国であるヨルダンやトルコ、アメリカを始めとする諸外国も日本を非難していない。閣僚の動きも素早くヨルダン国王や現地部族長との接触、警察の対テロ部隊の準備や、安保理の非難声明を出させるなど、外交的な対応はむしろ早いといえるだろう。

そもそもISILが2億ドルの支援を理由にして誘拐した、というのではない。その前に誘拐して、そして安倍首相の2億ドル支援声明を後付で理由にしたに過ぎない。日本もテロの標的になったと騒ぐ連中がいるが、そもそも理由をつけようと思えば日米が同盟関係にある。それだけでISILには理由に出来るのだ。

さて戻って、ではそれらを答えた上で安倍首相を辞任させるべきだとするにはどうすれば良いだろうか?

一つは、結果が出なかったことだ。人質は殺害された以上、その責任を問うべきだというものだ。しかしこれで辞任するのなら、日本より遥かに人質事件が発生し死者を出している米英仏などは何人首相や大統領がいても足りないだろう。日本国内だけの不思議ルールでそうしろ、という風に打って出るだろうが、誘拐して人質を殺害するだけで日本の首相が辞任する先例を作ってしまえば、彼らは日本政治の混乱のために一ヶ月に一人は誘拐して殺したっておかしくはない。まさに辞任などしてしまったらテロに与する行為だ。もっとも安倍反対を主張する連中も、もし別の、例えば今の野党の議員が首相だったら辞任しろなどとは言わないだろう。代わりに人質を救えない自衛隊反対などと無茶苦茶を平然と唱えそうだが。

一つは、安倍首相の2億ドル支援を欠点とすることだ。しかしこれはそもそも誘拐が支援表明の前であるし、これを非難する国は一つも無い。このことを理由にするのなら、人道的支援すらするなと言っていることになるし、事実中東と関わるなという声もあると聞く。言い方が悪かったとする揚げ足取りもあるが、ISILが軍事支援でないことを認識していることは当の誘拐宣告動画にある通りだ。言い方の問題とはできまい。

となれば、やはり2億ドル支援をするのが間違いだったと言うしかあるまい。

反安倍、辞任を要求する連中はきちんとその理由を明確にするべきだ。

「私達は中東への人道的支援を許さない」「テロリストの言う通りにすべきだ」

その二点を明確に表さず、ただ抽象的に辞任を要求する卑怯な手立てしかできない連中の言動に、一銭の価値も無い。

と言い切るのも可哀想なので、一つ彼らがどのように動いているのかを語ってみよう。

単純な話、安倍首相が辞めることを求めているだけなのだ。そのためにはテロリストだって利用するし、殺害された人質も利用する。無茶苦茶な言動だろうが、子供以下の言説だろうが、とにかく喚いて安倍やめろをダダをこねる。それだけの存在が彼らだ。

ではそもそもなぜ安倍辞任にこだわるのか? 彼らにとってはまず、現首相であることが大きい。彼らの多くは力も夢も地位も名誉もない小市民に過ぎない。そんな彼らが首相という大きな存在を倒すという、革命ごっこを夢想しているのと考える。

民主の時にはそんな連中はいなかった。というのは彼らの上にいるであろう存在が、安倍自民党が都合が悪く、民主党が都合が良い。ただそれだけのことだ。つまり上に立つ存在が矛先を少し変えれば、彼らはいくらでも原発容認、憲法改正、アメリカ万歳になれる存在だ。そこに主義主張など感じられない。当然だ。彼らの多くは政治や社会が理解できず、爪弾きにされて生きてきた弱者だ。だから自身が役に立てる、力がある、そう夢想させてくれるのなら右でも左でもどちらでも良いのだ。

本来的にはそうした弱者を救うことで、国の安定に寄与できる。そうした仕組み作りはあるべきだと思う。だが如何せん、バカは死ななきゃ治らないという言葉があるように、世の中にはどうしても度し難い存在がいるものだ。その一つが彼らだろう。

見方を変えれば、彼らは弱者らしく吠えている。それをマスコミが利用して、反米や反日を腹に抱えている連中がまた利用する。その構図のダシにされている連中は、哀れに思いこそすれ馬鹿にする対象ではもはや無いのかもしれない。

陰謀論めいたことは言わない。日本政府も、ISILも、反安倍も、マスコミも、反米も反日も、すべて政治的な利権争いの積み重ねの上にある。そのきっかけや、あるいは芯として思想や感情はあるのだろうが。

 

私としては互いに主義主張を平和的に解決できる世界が望ましい。それは利権争いがない世界とまでは言わないし、政治的な争いも消えはしないだろう。

ただ今の状況はどうにも遠すぎる。国権の最高機関の場ですら、つまらない揚げ足取りが横行し、外を見れば基礎的な漢字も使えないプラカードが政治の末端としている。それをあたかも市民代表のようにマスコミが描き、それを見て我々が馬鹿にする。

今一度、全国民に対する教育が行われ、知的水準の底上げが必要だろう。

もっとも賢くなればなるほど世の中は合理的、省エネへと向かい、それをゆとり悟りと馬鹿にする連中が、今権力者として君臨しているのが日本だ。

世代交代にはあまり期待できない。連綿と受け継がれる知的水準の低い権力者、またはそれを望む権力者の支配構造。それをなるべくなら平和的に解決したいものだが。

革命を起こされるべき連中が、革命ごっこを夢見させているとはいやはや。勇者に適度なモンスターを与えて育てる魔王の如くではないだろうか。